オンギロン 170【ドラマ用の日本語 6】

「何だよ、リアクションリアクションて? 普段の生活でそんなに一々リアクションする事ないし、してる人間だっていないじゃないか!」

 そう思ったあなた。正解です。

 確かにそんなにしょっちゅう激しくリアクションする人なんて日常世界にはいません。多くの人々はリアクションを「脳内」で完結させてしまいますから、たとえ目の前で大事故や殺人事件が起こってもなすすべもなく茫然と見守ってしまう。

 それが「日常」というものです。

 でも、

「じゃあそんなにリアクションにこだわらなくても……」

 と思ってしまったあなた。

 あなたがもし「声優になりたい」んだったら、それは不正解です。

 なぜなら「声優」は、その「日常世界」に棲む生き物ではないからです。


- 非日常が日常 -

「アニメ」「映画」の1ジャンルであり、「映画」「ドラマ(劇)」という表現方法の1つです。

 では「ドラマ」とは?

「日常」では起こりそうにない事件をわざと起こして「登場人物」が七転八倒する様子を観せ、「日常」に飽いたお客様につかの間の興奮や解放感を味わってもらうエンターティンメントの事です。

「声優…楽そう」という認識で目指してしまった人たちには、この「七転八倒」が見えていません。一番手間の掛かる工程を見落として「しゃべっている」という表面しか記憶に残っていないから、文章を読み上げただけで認めてもらえて、しかもそこそこ稼げる仕事のように見えてしまうのでしょう。


「ドラマ」の中でも特に「アニメ」は、非日常的な事件次々と起きます。だから解決する方も次々と対応していかないと間に合いません。数秒や1行の間に、日常では経験した事のない行動を次々と取らなくてはならないのです。

 こうした「声優の実態」を知ると、ほとんどの「志望者」は素敵な人生設計が一瞬にして破綻してしまうのでうろたえます。それであわてて近道を探してかえって道に迷い、そのまま消えてしまう人が多いのです。


-「声優」ならではの事情 -

 というわけで「演技」という仕事は元々忙しいものなのですが、困った事に「声優」には「声優」だけの事情があって、さらに忙しくなってしまうのです。

 ちょっと「映画」や「テレビドラマ」の収録現場を思い浮かべてみてください。

 シーンの収録が終わると必ず「カット!」と声がかかりますね。「実写作品」は「1カット単位」で収録するのが普通です。「カット割り」しないで続けて撮影するやり方は「長回し」と呼ばれて特別扱いされています。


「カット」は、台本通りの順番で撮影されるとは限りません。1日に数カット撮ってしまう場合もあれば、たった1カットを撮るのに1日掛かりなんて場合もあります。

 例えば、ロケ先が1日しか押さえられないとか、大掛かりなセットが1回しか組めないなんて場合には、時間経過を無視してその場所が必要なシーンを1回で撮ってしまいます。


 このようにして撮りためた「カット」を部品として組み合わせるのが「ドラマ」制作の普通だとすると、「アニメ」や「吹き替え」などのアフレコ収録は「普通」ではありません。

 まず、

「アフレコ」では「長回し」が基本です。

 たとえ映像本体が短い「カット」の集合体だとしても、「声優」はノンストップで演技し続けなくてはならないのです。

 例えば、

「声優志望者」が声優の職場としてもっともイメージしていそうな「30分アニメ」の現場では、30分を前後半に分けて収録しています。でもそうやって分けても1回の本番10分以上になります。実写のドラマで「10分越えのワンカット」なんてそうそうあるもんじゃありません。


 では収録順は? 当然「順録り」が基本になります。

 全然テンションの違うカットがくっついていても、よほど近くて続けられない場合以外は続けて録ってしまいます。「ここは後で」という「抜き録り」もあるにはあるんですが、何となく「しかたないから」という雰囲気になってしまいます。


 声の仕事に慣れていない俳優さんが現場で一番違和感を感じるのは、この「進行リズムの違い」でしょう。

 映像収録時の「カット収録」の感覚からすると、「アフレコ」の「長回し+順録り」はかなり平板に、長く感じてしまうものです。そうすると「立って本読み」という状態に陥ってしまいやすく、それで台詞全体が平坦になってしまう人が多いのです。


 昔「ジャッキー・チェン」のカンフー映画の吹き替えの合間に大先輩の 石丸博也さん がこんな風におっしゃっていました。

「向こうは少なくとも1週間は掛けて撮影してるのに、こっちはそのテンションを数時間で再現しなくちゃならないんだから、そりゃ疲れるよ」

 そうなんです。観ているだけだと分からないけれど、結構疲れる仕事なんです。

シャベルテック

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2コメント

  • 1000 / 1000

  • Bandowz

    2019.03.09 01:42

    @インディ、またの名を赤塚零ご来場ありがとうございました。 今後ともよろしくお願いいたします。
  • お引っ越しおめでとうございます(?笑)。 いつも楽しく読ませていただいています。 「映画」や「テレビドラマ」と「アフレコ」の違いが良く分かりました。面白いです。 これからいろいろな作品を観るときに、収録現場を想像してしまいそうです。 石丸博也さんのお話も面白かったです。 特にあのカンフー映画のテンションは疲れそうですね(笑)。 久しぶりに観たくなりました。